DaVinci Resolve 20で階調を最大限に引き出す実践的なHDR編集手法
はじめに
DJI Osmo Pocket 3 には、HDR収録が可能な「HLGモード」と「D-Log Mモード」が搭載されています。
このうち HLGモードは“True HLG” であり、撮影した映像をそのままHDR対応ディスプレイで再生しても自然な輝度階調を再現できます。
ただし、HLGモードではカメラ内部でトーンマッピング処理が行われるため、
撮影時点で輝度レンジが圧縮され、白飛びしやすく、後処理でのリカバリー余地が小さいという弱点があります。
一方、D-Log Mモードで撮影してポストプロダクションでHLG化 すれば、
センサーが捉えた広いダイナミックレンジをそのまま保持したまま、
自分の意図で階調と色を整えることが可能になります。
つまり――
“撮って出しのHLG”ではなく、“後で仕上げるHLG”こそがOsmo Pocket 3の真価を引き出す方法。
本記事では、そのための実践的なワークフローを、
DaVinci Resolve 20を用いた「D-Log M→HLG変換」を中心に解説します。
前回の記事「GoPro GP-Log→HLGのワークフロー解説」では、
Log素材を中間空間で処理してHLG出力する流れを紹介しました。
今回はその考え方を DJI Osmo Pocket 3 の D-Log M素材 に応用します。
なお、DaVinci Resolveには「D-Log M」ガンマのプリセットは現時点で存在しません。
そのため、Input Gamma には「DJI D-Log」を指定して処理します(トーン特性が近く、実用上問題なし)。
加えてResolve 20では Input Color Space に「DJI D-Gamut」 を選べますので、DJI D-Gamut + DJI D-Log が最適解です。
また今回は、
「10bit素材を10bit素材として活かしたい」
という撮影・編集者の視点から、
メーカー公式LUTを初手で使用した場合に起こる“縮小コピー→拡大コピー”現象についても触れます。
プロジェクト設定(カラーマネジメント)
本ワークフローでは、DaVinci YRGB Color Managedモードを使用しつつ、
自動カラーマネジメントをOFFに設定し、プロジェクト全体をHDR処理向けに構成します。
🔹 推奨設定
設定項目 | 推奨値 |
---|---|
カラーマネジメントモード | DaVinci YRGB Color Managed |
自動カラーマネジメント | OFF |
カラー処理モード | HDR DaVinci Wide Gamut Intermediate |
タイムラインカラースペース | DaVinci Wide Gamut |
タイムラインガンマ | DaVinci Intermediate |
出力カラースペース | Rec.2100 HLG |
トーンマッピング/ガンママッピング | CSTノードで手動設定(DaVinci/Saturation Compression) |
この設定により、プロジェクト全体がHDR(HLG)出力を前提とした色域・ガンマで動作します。
Resolve内部では常にDWG/Intermediate基準で演算が行われ、
CSTを使ったLog→中間→出力変換がスムーズに行えます。
🔹 なぜこの設定にしているのか
アクションカム(Osmo Pocket 3やGoProなど)は、
メインカメラではなく「サブカメラ」として使われる場面が多い という前提があります。
単独でHLGやD-Log M素材を仕上げることもできますが、
将来的にミラーレス機(例:S-Log3やV-Logなど)で撮影した素材と同一タイムラインで扱うことを考えると、
共通の作業空間(DaVinci Wide Gamut / Intermediate)で運用できる環境を整えておく方が拡張性が高い のです。
この「Color Managed(Auto OFF)」構成を採用すると:
– Resolve内部の演算は常にDWG/Intermediate基準で統一される
– 自動変換は行われず、素材ごとにCSTを明示的に設定できる
– 将来、別カメラ素材を追加してもCSTで正規化するだけで整合が取れる
つまり、「今はOsmo Pocket 3単体で完結していても、将来的に複数カメラを混在させても破綻しない」構成です。
🎯 ポイント
Resolveが内部でDWG基準を維持してくれるため、
S-Log3やV-Log素材を後から追加しても、
同じタイムライン上で自然なトーン一致が得られます。
🔹 DJI素材の自動認識について
Resolveはクリップのメタデータに基づいて自動で色空間を認識しますが、
コンシューマ寄りの機種ではタグが簡略化されていることが多く、誤認識や非認識が起きがちです。
Osmo Pocket 3のD-Log M素材も、自動では Rec.709 や Unknown と見なされることがあります。
- Resolve 20のポイント
入力側プリセットとして 「DJI D-Gamut(色域)」 と 「DJI D-Log(ガンマ)」 が選択可能。
D-Log Mプリセットは未搭載のため、DJI D-Logを代用するのが正解です。
💡 確認方法:
メディアプールでクリップを右クリック →「入力カラースペース」を確認。
「DJI D-Gamut / DJI D-Log」になっていなければ、ノードのCSTで 手動指定 します。
なぜ D-Log M→HLG なのか
- カメラ内HLGよりも広いダイナミックレンジを後処理で維持できる
- D-Log M素材は広色域(DJI D-Gamut相当)で、HDR出力と親和性が高い
- 10bit素材を10bitのまま扱えば、Log特有の滑らかな階調を損なわない
- 公式LUTを初手で当てると、一度SDR(Rec.709)に潰してから再拡張する
→ 結果として「縮小コピー→拡大コピー」のような階調破壊が起きる
中間ノードの考え方や、Log→中間→最終出力の三段構成は
前回の記事「GoPro GP-Log→HLG ワークフロー」を参照してください。
全体構成
ノード構成:
1️⃣ 入力正規化(D-Log M→DWG/Intermediate)
2️⃣ グレーディング(中間ノード)
3️⃣ 出力正規化(DWG→Rec.2100 HLG)
🔹 補足:メディアプール設定について
DaVinci Resolve 20では、素材を読み込んだ際に「入力カラースペース」が自動設定されることがありますが、
今回のワークフローは Auto Color Management=OFF で CST手動制御 が前提です。
メディアプール側では変換を適用しないようにします。
設定手順
- メディアプールでD-Log M素材を選択
- 右クリック → 「入力カラースペース」 → 「タイムラインと同じ(Same as Timeline)」 を選択
- ノード側のCSTで
Input Color Space = DJI D-Gamut
、Input Gamma = DJI D-Log(D-Log Mの代用)
を手動指定します。
📌 理由:
Resolve 20では「未指定(Unmanaged)」メニューが廃止。
Same as Timeline を選ぶと実質“変換なし”として扱え、CSTのみが有効になります。
第1ノード:入力正規化(CST)
Resolve 20で選べるプリセットを前提 にした推奨設定:
設定項目 | 値 |
---|---|
Input Color Space | DJI D-Gamut |
Input Gamma | DJI D-Log(※D-Log Mは未搭載のため代用) |
Output Color Space | DaVinci Wide Gamut |
Output Gamma | DaVinci Intermediate |
Tone Mapping | Simple(またはNone) |
Gamut Mapping | Saturation Compression |
📌 メモ
D-Log M専用のガンマが無いぶん、露出にごく僅かなズレが出る場合があります。
Exposure ±0.2〜0.3 や Gamma/Pivot で微調整すれば実用上問題ありません。
中間ノード(グレーディング)
DWG/Intermediate空間で露出補正・彩度調整・ノイズリダクションなどを行います。
ただし、D-Log M素材は非常に素直な特性を持つため、
CSTで正しく展開すれば、ほぼその時点で自然なコントラストと色調が得られます。
実際には、第1ノード(CST)と最終ノード(出力)だけで“完成形に近い画”になることも多く、
中間ノードでは軽い微調整――例えば露出の微補正や全体彩度の調整程度――で十分です。
項目 | 目的 | 備考 |
---|---|---|
Lift / Gamma / Gain | 微妙な露出補正 | トーンのニュアンス調整レベル |
Contrast / Pivot | 仕上げコントラスト | CSTのトーンマッピング次第で不要 |
Saturation | 全体の彩度調整 | 展開時に飽和気味な場合のみ |
Noise Reduction | 夜間やISO高め時 | 軽くでOK |
詳しいノード構成や作業手順は、前回記事の
→ GP-Log→HLG ワークフロー解説
を参照してください。
最終ノード:出力正規化(HLG変換)
DWG/Intermediateのまま出力します。
実際のHLG化はプロジェクト設定の 出力カラースペース=Rec.2100 HLG が担当するため、
ここで改めてCST変換を行う必要はありません(GP-Log記事と同一方針)。
推奨設定(GP-Log版と同様)
項目 | 値 |
---|---|
Input | DWG/Intermediate |
Output | DWG/Intermediate(変換なし) |
Tone Mapping | DaVinci(または 輝度マッピング) |
Gamut Mapping | Saturation Compression = ON |
Max Output (nit) | モニターの実ピーク(例:1000) |
Max Input (nit) | 800〜1200(素材に合わせて調整) |
Apply Forward OOTF | 見た目が暗い場合のみONを試す |
📌 補足
HLG化はプロジェクト設定に任せるのがポイント。
詳細な意図と検証は、前回記事
GP-Log→HLG ワークフロー を参照。
🎓 アマチュア動画編集者が混乱しやすい「自動認識」の罠
アクションカム(Osmo Pocket 3やGoProなど)は、手軽にLog撮影ができる反面、
記録ファイル内のメタデータが簡略化されているため、
DaVinci Resolveが素材を正しく認識できない場合があります。
特に今回のように 「D-Log M」ガンマがDaVinci Resolve内にそもそも存在しない ため、
ソフト側としても自動的に正しい入力設定を選択することができません。
つまり編集者自身が、「DJI D-Logで代用する」などの代替案を理解して設定する必要がある のです。
その状態で「自動カラーマネージメント」をONにしたり、
メーカー公式LUTを適用したりすると、
Resolveが内部的にRec.709扱いで変換してしまい、
結果として 彩度・コントラストが二重に適用される(トーン破綻) という現象が起きます。
アマチュア動画編集者の方が「Logで撮ったのに色が濃すぎる」「LUTを当てたら白飛びした」と感じるケースの多くは、
この自動認識の誤動作が原因です。
そして、ただでさえ難易度の高いLog撮影のハードルを、さらに上げてしまっている要因がまさにここにあります。
Log撮影自体は本来、センサーの持つダイナミックレンジを最大限活かす手法ですが、
カメラと編集ソフトの“色空間の食い違い”が起こると、その利点が一気に失われてしまいます。
DaVinci Resolve はプロ向けの素晴らしいツールであり、
無料版でも非常に高い編集・色管理性能を備えています。
しかし皮肉なことに、アマチュア動画編集者が用意するアクションカム素材ほど、Resolveが自動で正しく認識できないことが多く、
場合によっては 誤ってRec.709として扱ってしまう ケースすらあります。
この「最初の入り口」で混乱するユーザーが非常に多く、
実際にはLog撮影やHDR処理よりも、
素材の色空間を正しく扱うことこそが最初のハードル になっているのが現実です。
本記事で紹介したように、自動カラーマネージメントをOFFにしてCSTで明示的に変換する構成にしておけば、
こうした誤認識の影響を受けず、素材本来の画質を引き出すことができます。
まとめ
- Resolve 20では Inputに「DJI D-Gamut」+「DJI D-Log」 を選ぶのがベスト(D-Log Mは未搭載のため代用)
- カラー処理モードは HDR DaVinci Wide Gamut Intermediate、出力は Rec.2100 HLG
- カメラ内HLGは便利だがトーンマッピングが固定で後処理耐性が低い
- メディアプールは「入力カラースペース:タイムラインと同じ」で自動変換を無効化 → ノードでCST指定
- 将来的なマルチカメラ運用にも対応可能(DWG/Intermediate基準)
- 10bit素材を10bitのまま活かすには、公式LUTではなくCST運用が基本
- D-Log M素材は素直な特性を持つため、CST正規化だけで完成度の高い映像が得られる
- 公式LUTを初手で当てると「縮小コピー→拡大コピー」になり階調が破壊される
※この記事は前回記事「GP-Log→HLG ワークフロー」の応用編です。
中間ノード構成や色調整の考え方、出力ノードの詳細設定はそちらをご参照ください。